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寄附額9億円超「かはく史上最大の挑戦」の裏側。

 こんにちは!文部科学省寄附検討チームです。
 
 こちらの「寄附募集に関するグッドプラクティス」では、寄附募集に携わる方々への参考となるよう、寄附集めに関して様々な挑戦を行った法人担当者へのインタビュー記事を随時掲載していきます。
 
 記念すべき第1回目は、「かはく史上最大の挑戦」と銘打って実施したクラウドファンディング(以下、クラファン)で、9億円を超える寄附を集めた国立科学博物館(以下、科博)へのインタビューをお届けします。
 
 寄附額の多さだけでなく、多くの反響をも巻き起こした科博のこの「挑戦」。その裏側には、どのような成果や苦労があったのか、担当者の率直な思いを伺いました。


・クラファンの経緯・きっかけ

ーこのクラファンは、キャッチコピーにあるとおり、「地球の宝を守れ」というインパクトの大きな挑戦でした。まずは改めて実施の背景を教えてください。

お話を伺ったマーケティング・コンテンツグループの皆様

 当館では、コロナ禍で入館者数が減少したことに加え、光熱費の高騰もあって、標本や資料の収集保管のための資金が不足することが見込まれていました。そこで、過去にも実施経験のあったクラファンを検討することになったというのが、実施の背景です。
 ただ、前回のように、特定のプロジェクトを対象としたクラファンでなく、今回は基幹の業務を取り上げたという点で、新しい挑戦でもありました。

日本の鉱物(日本館3階)

・クラファン実施の準備・体制

ーその意味では未知の挑戦でもあった訳ですね。どのような準備をされたのでしょうか。

 私達が具体的に動き始めたのは、年度初めの4月からです。クラファンの開始は8月からでしたので、4か月間で広報戦略や返礼品の検討を進めたことになります。クラファンを行うこと自体は、昨年度1月頃、館長からの発案で実施が決まりました。
 返礼品の検討は、研究員が中心となって取り組みました。クラファンが開始してからは、想定以上の反響を得たこともあり、館長からの提案で、館長含め、ほぼ全ての職員が返礼品の実行に携わっています。

ー中心的に携わる事務局はどのような体制だったのでしょうか。

 クラファンの実施コアメンバーは、当グループ3名とセンター長の合計4名で、他にも財務や広報、返礼の担当者も加わる形で体制を整えました。当初は目標金額であった1億円を達成する体制としてならば、何とかなるだろうと考えていました。
 そのような中、想定以上の寄附をいただきましたので、他部署にさらに応援を求めて体制は改善しましたが、個人情報の管理など、グループ員でないと出来ないような業務も数多くありました。
 当初からこれほどの寄附額を見込んでいれば、もう少し手厚い体制を構築できたと思いますが、寄附募集は始めてみないと分からないため、そこは今振り返っても難しいですね。

ーまさに想定外の寄附額を集めることになりましたが、準備段階で工夫されたことなどありますか。
 
 返礼品の検討には特に力を入れました。最終的には40程度まで絞りましたが、当初は200種類ほど案として挙がりました。
 また、事前に準備していた広報のアクションも効果的だったと思います。SNSを用いて、「もうすぐ何かが始まる」と、みなさんの注目が集まるような発信を心掛けました。
 クラファンの実施に際しては、記者会見を行いました。その後、各社ニュースなどで取り上げて頂いたため、多くの方々から反響を頂きました。

・苦労した点

ーまさに多くの反響を巻き起こした今回の取組ですが、問い合わせも多かったことと思います。事務手続きも含め、特に苦労した点を教えてください。

 当館では、賛助会の活動のほか、施設貸与などの財源多様化のための取組を行ってきましたが、このクラファンについても、そのような自助努力の取組の一つという位置付けでした。
  ただ、やはりこのような基幹業務について寄附を集めることについては、様々な面での反響が大きかったですね。
 さらに、今回初めてクラファンサイトから寄附を行うという方から、「寄附の方法が分からない」という声もいただきました。寄附プラットフォーム事業者に、そのような方向けのマニュアルを用意していただきましたが、予め用意しておいた方がよかったです。このようなお問い合わせへの丁寧な対応が必要になりました。
 事務的な面では、寄附控除証明書の発送作業や、5万件もの個人情報を取扱うのも大変苦労しました。やはり、寄附金の規模が事前に想定できないことにより起因した苦労が多かったかなと思います。

・感じた成果

ー多くの寄附金額の裏側には、多くの苦労があったということですね。今回クラファンを行った成果として、寄附金額以外に感じられたものはありますか。

 当館では、以前から賛助会の活動も行っていますが、賛助会の会員数がこれまでの倍以上に増えました。
 ただ、これらの数値の上での成果よりも、クラファンの実施により、科博がどういう存在なのかを知ってもらえたというのが大きな成果だと思っています。世代を問わず、多くの方に応援いただきましたが、科博を応援してくれる仲間が増えたことは、本当にありがたい限りです。

賛助会員銘板(日本館地下1階)

・総括・まとめ

ー今回の取組は、日本におけるクラファン史上全体で見ても、エポックメイキング的な取組になったように思います。担当者として、寄附を集めた要因など、どのように総括されますか。
 
 これだけ多くの寄附を集めたのは、報道での扱いや、SNSでの広報戦略など、様々な要因が重なった結果であると思っていますので、何か一つを挙げて、「これが効果的な方法です」とお伝えするのは正直なところ難しいです。
 一つ言えることとしては、クラファンの実施にあたっては、作業量的にも大変なことが多く、体制面についての事前の検討と、応援体制については、しっかりと検討しておくべきでしょうか。それなりの覚悟は必要です。

 多くの法人にとって財源の多様化は重要なテーマだと思いますので、当館のこの取組をきっかけとして、少しでも文部科学分野における寄附文化が醸成されれば、嬉しいですね。

ー最後に、今後に向けた取り組みについて、教えてください。 
 
 本当に多くのご支援をいただいたので、同じようなクラファンを行う予定は今のところありません。
 今回のクラファンをきっかけに、これまで関わりのなかった企業ともつながりができたので、企業との連携活動や、賛助会活動など今まで行ってきた取組は、引き続き取り組んでいきたいと思います。
 また、1回きりのクラファンだけではなく、継続的に当館を応援していただける方のための寄附も検討してまいります。

地球の多様な生き物たち(地球館1階)

・寄附検討チーム員より

 今回は、社会的に大きなインパクトをもたらした「科博クラファン」について、担当者の方から貴重なお話を伺いました。
 寄附に関する事務手続きで多くの苦労があったなど、必ずしも「グッドプラクティス」としての側面だけではありませんが、応援してくださる方を「科博の仲間」として、多種多様な返礼品を用意したことや、積極的な情報発信に取り組んでいることなど、「仲間」に向けた真心込めた取組は、科博の象徴的な取組と言えるのではないでしょうか。
 本記事が、寄附募集を担当される方々への参考となれば大変幸いに思います。